• きりきりと切り落とされしわが胸の痛み走りて闇に吠えたき
• 許されて外泊の身に白鳥を見せむと君は回り道せり
• 検査日のレントゲン室に白々とさらす片乳に技師の目刺さる

　この20年間の作品約400首から成る第一歌集。厳しい病と戦ってきた記録ともいえる一冊は、闘病の作品を多く収め、優れた作品も少なくない。

• 部屋中に襁褓（むつき）の白旗なびかせて源氏の裔のごとき双つ子
• 双つ子の四つの瞳にたまりゆくくれなゐ色の花火のしづく
• ショベルカー果樹園薙ぎて来しものをがつくり首を落す　夕闇

　しかし同時に、病を離れた作品にもきらっと光る秀作がある。日常のなにげない出来事に対する喜怒哀楽が素直に表現されたこうした作品も、この一冊の大切な成果だと思う。